−宵やみの星々−

 潤子からお昼は親友と済ましてくると電話があり、実際帰って来る時間よりも遅く
なることが分かると、がっくりと肩の力が抜けた私。
 まっ、いいか。年甲斐もなく浮かれていること自体、爆笑ものだろう。あなたはい
くつ?あなたは結婚して何年になるの?なんて、よけいな事を問いただしてくる聖人
ぶったもう一人の私が構えている。

 一番星が輝く頃、潤子は家に着いた。ほんの1秒前までムスッと不機嫌だった私の
顔は一辺に口もとと目尻が緩む。
「お母さんっ〜〜!ただいまっ!お風呂はいりたい〜〜!」
 潤子が私に突進してきて抱きつく。
「いきなりなんなの、心配してたんだからもうっ」
「ごめんなさい〜。やっぱいきなり突然帰ってくれば良かった。だって、お母さん心
配症なんだもん」
「そんなのもっと心臓に悪いわよ、きっと」
「晩ごはんの支度はもう出来てるのかな?」
「どしたの?いきなり??」
「うん、出来てなかったらさ、私が作ってあげよーかと思って」
「変な子。どこかおかしいんじゃないの?そんなこと一度だって言ったことないのに」
「へへ、今ね。料理に凝ってるの。お母さんに手料理をひとつ、食べてもらおうかと
思案してるのよ」
「下ごしらえはしてるけど…、じゃ今夜のおかずは潤子にたのんじゃおかしら」
「おっけ!まずはシャワー浴びさせて!もう歩き回って汗だくなの気持ち悪い〜」
「はいはい、どうぞお好きにしてちょうだい」

 潤子はこの上なく明るく幸せそうだった。そんな潤子を見てるとやはり私は、あの
頃のことを否応なしに思い出してしまう。
 私は首を横に振り、思い出してはいけない一部分を払いのけた。
 潤子がお風呂に入っている間、外の庭先の手入れをしていた。宵やみの星々が空を
飾っていた。空の星の位置は、学生の頃とは変わらない…。ふと、そんな事が心に過
ると、私は身震いして、掘り起こさないでもいいところをスコップでひたすら穴を掘っ
ていたのだった。
                 おわりっ