−思いは馳せる−

 新幹線の中、ずっと私は下宿生活だった頃の自分を見ていた。
 その光景は止めどなく溢れ出す。私自身どうしようもなく止めることは出来なかっ
たのだった。
                   ※
「結婚しよう」
 彼が公園のベンチで、私に言った。
 いつになく彼は愛想も悪く、私より少し離れて歩き、そしてこのベンチでも、二人
分程、開いて座ったのだった。

「君と結婚したら僕は、動物病院をやりたいんだ。すぐにはできっこないけど、君と
ならきっといつかは動物病院の先生になれそうな気がするんだ」
 彼は自分の夢を話し始めた。
 私は空を見ていた。夕やみの中で、光る星を見つけた。

「私は長女なの。実家は養豚牧場をしているわ、きっと…養子をって両親にせがまれ
るに決まっているわ」
「僕も畳屋の一人息子だよ」
「そうだったよね」

 夢一途な彼と、現実的な私。
 私は彼の夢に自分の夢を重ねていくようになった。動物の勉強をしたり、医療事務
の資格を取ったり、毎日が忙しくって楽しかった。
 それに薬剤師の資格も取りたいと、私は頑張っていた。

 その夢も卒業をしたと同時に、花火が散るように消えてしまった…。

 実家に戻されてしまった私だけど、それでも残り火は心の奥深くに熱く燃えていた。
 夢にプロポーズされた時の空が何度も出てくる。あの光っていた星が私に堪える心
を作っていてくれたような気がする。

 やがて、時が過ぎ、両親から彼が結婚したという報せを聞いた。

 心に言い知れない夜の海が広がっていく。どんどん大きく海は広がっていって、私
は一人ぼっちになって寂しかった。
 あの時の星はもう見当たらない。

 私は両親の言いなりになり、親が見初めた人と結婚をした。
 実家の養豚牧場は彼の手によって売られ、それが原因の元で家族がバラバラになっ
てしまい、それは私と彼の仲にも影響を及ぼし、私たちは話し合いの結果、離婚をし
たのだった。
 その離婚騒動の頃、私は妊娠3か月だった。その事は彼には黙っていた。離婚をし
たら何もなくなってしまうことを恐れた私はお腹の中のベビーを宝物のようにこっそ
り隠していたのだった。

 そう、それが娘の潤子だった。
生きていく目的が欲しくて、名前も昔の恋人だった潤平の名前を一字、いただいたの
だった。

 彼の息子も私の名前の一字を取って「星一」にしたのだろうか?

 そんな疑問に微かに喜びを覚えた私は、今の不幸せな気分を潤子の結婚で幸せに返
られることを夢を見て、窓の向こう側で飛んでいく風景を眺めていたのだった。
                  おわりっ